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(O2E)

本と酒と私 第一章 フランシスとラフロイグ[前編] (O2E)

冒険小説というジャンルを聞いたことがあるだろうか。
簡単に言うと、過酷な状況に立ち向かう主人公が苦難を乗り越えていく姿を描く小説である。
嵐の海や急峻な冬山といった環境で、目的のために命を懸ける主人公の内面を行動を通して描くことが多い。
そのために文体としてハードボイルドになるケースも多いが、必須条件ではない。
立ち向かう対象は自然環境だけでなく、テロリストや犯罪者、国家や権力者など様々である。
代表的な作家を上げるとしたら、マクリーン、ヒギンズ、ライアル、だろうか。
007シリーズや、ロビンソン・クルーソーなどを冒険小説に含む人もいるだろう。
英国の作家が多い印象だが、情熱を表に出すことを嫌いフェアな姿勢を尊重する国民性の表れなのかもしれない。
その英国冒険小説の語り手の一人に、ディック・フランシスという作家がいる。
作家になる前は障害競馬の騎手としてチャンピオン・ジョッキーにもなったという、変わった経歴の持ち主だ。
その経歴から、彼の描くストーリーの舞台は競馬界であることが多い。
主人公の職業は騎手や調教師、厩務員、馬主、馬匹運搬業者などなど。
建築家や写真家、画家が主人公の小説もあるが、何らかの形で競馬との関係がある。
だからと言って競馬に関する知識がないと楽しめないかというと、全くそんなことはない。
半沢直樹に共感するために銀行員になる必要はないし、SF小説を楽しむために宇宙飛行士になる必要はないのだ。
専門用語が出てきても、話の中の知識として単純に受け入れればよい。
フランシス作品の主人公が務める多彩な職業の中でも異色と言えるのが、「証拠」(Proof、1984)のトニィ・ビーチの生業である。
彼は町の酒屋の店主で利酒の腕を買われて(舌を買われて?)警察の調査の協力する。
次第に残忍な犯罪者の姿が見えてくる中、「普通の人」であるトニィが持てる能力と知識、そして勇気を振り絞って自分の限界を超えてゆく。
過去の悲しい思い出が綴られ、テーマとしては勇気とは何かを考えさせられるという自省的な要素が強い。
ある意味暗い内容でありながら、稀代のストーリー・テラーであるフランシスの筆が読む者を飽きさせない。
そして最終章で見出すものは救済か解放か。

2019年06月03日

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