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日々これ徒然

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本と酒と私 第三章 ハインラインとベーシック・マティーニ[後編] (O2E)

ルーニーの中では数少ないコンピュータ技術者である。
ハード・ウェアの修理もソフト・ウェアのプログラミングも行うエンジニア、マヌエル・オケリー・デイビス。
彼は当局から追われる女性を匿うことになる。
その隠れ家で彼女に作ってあげるのが『基本的なマティーニ』だ。
一般的に、マティーニはジンとベルモットを好みの割合で混ぜ合わせて作る。
ジンは麦や芋で作った蒸留酒にジュニパー・ベリーというスギ科の植物で香りづけしたもの。
ベルモットは白ワインにニガヨモギなどのハーブやスパイスを配合したものである。
ベルモットが多ければスイートなマティーニになり、少なければドライ・マティーニになる。
ジンを入れたグラスに『ベルモット』と囁くだけというウルトラスーパードライなレシピがある程、両者の比率にバリエーションは多い。
また、混ぜ合わせ方はかき回すだけの『ステア』が一般的であり、良く混ざる『シェイク』では氷が砕けて水っぽくなりすぎるために好まれない。
シェイクのような作り方で、しかもベースをウォッカに替えるような、もはやマティーニにとは言えない邪道の仕儀をして許されるのはジェームズ・ボンドくらいである。
民間人がマネをしてはいけない、笑われるのがオチである。
さて、月世界では贅沢ができるような余地は一切ないが、酒を抜きにして文化的な生活を送れる人類社会もない(ハズだ)。
そして、月世界にジュニパー・ベリーやニガヨモギを栽培する余裕はないが、麦やジャガイモなら売るほどある。
入手可能な作物のデンプンを糖化し、アルコールを作り、蒸留してできるのがウォッカである。
現在の私たちが地球で飲むウォッカは蒸留も濾過も複数回行う高級品だが、さすがにルーニーがそんな手間をかけられるとは思えない。
今の私たちの感覚で言えば、スーパーなどで売っている安いペットボトル入りの焼酎が相当するのであろう。
そんな代物を氷の上に注いだのが、マヌエルの作った『基本的なマティーニ』である。
質実剛健を英語でどう表現するのか知らないが、ルーニーの飲み物としてこれ以上に適切なものはないように感じる。
実際に市販のウォッカをロックで飲むと、意外に飲みやすく感じる。
もちろんアルコール度数によっては大変なことになるので、試すときには自己責任で願いたいが、40度くらいのウォッカで和えればまろやかささえ感じられる。
ウォッカと言っても薬草やスパイス(唐辛子も!)などを漬け込んだフレーバー豊かなものもある。
また、クリアさを追求したものや度数の強さを追求しているものもあるので、色々試してみて欲しい。
地球との戦いに多くのルーニーを参加させることの難しさを、マヌエルはこう表現している。
『普通の月世界人が興味を持っているのは、ビール、賭けごと、女、仕事、その順番なんだ。』
こんな価値観を中学生の時から刷り込まれ続けた私が社会人を長年続けられたのは、持って生まれた私自身の勤勉さのためと思うのは飲み過ぎたからだろうか。

2020年06月01日

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