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日々これ徒然
essay & opinion
本と酒と私 第一章 フランシスとラフロイグ[後編] (O2E)
この小説で重要な役割を果たすのが様々な酒である。
特にフランス産を始めとするワインに関する蘊蓄が多数出てくる。
作中に登場するワインの種類は実に45種にのぼるとか。
ワインとは別に鮮烈な印象を残すのがラフロイグというシングル・モルト・ウイスキイだ。
スコッチ・ウイスキイの4大産地の一つアイラ島で作られる銘柄である。
初めてこの「証拠」という小説を読んだときに強い興味を覚えた私は、酒屋で探して購入してみた。
グラスに注ぎ、飲もうとして口に近づけた瞬間、ウイスキイとは思えない異様な香りが鼻孔を満たす。
薬のような、海藻のような、どこかで嗅いだことのあるにおい。
子供の時のつらい思い出。
しばらくして気づいたが、これは正露丸の匂いだった。
小さいころ田舎で腹痛を起こしたときにおばあちゃんに飲まされたあのラッパのマーク。
これが酒か?ボトルで買うなんてなんと無駄なことを!
その後しばらくは手を付けずに置いておいたが、ある夜、他に飲む酒が無くて水割りにしてみた。
すると、あの強烈なにおいが少し抑えられ、甘味すら感じられる。
面白くなって飲み続けていると独特なにおいにも慣れ、ストレートでも気にならなくなってくる。
逆に個性的な香りが広がりとなって豊かな世界を形作っていたことに気づく。
こうなってしまえば、もうアイラ好きである。
クセのある香りを求めてボウモア、ラガヴーリン、アードベックなど、アイラがあれば必ず試すようになっていく。
一度、ニッカウヰスキーの工場で様々なフレーバーのシングル・モルトを試飲した際に、北海道で作られたアイラ風味に出会ったことがある。
たまたまできたそうで、ヨード臭などはそのままだった。
早速購入してあっという間に飲んでしまった。
小説の中ではこの個性的なウイスキイを安物と入れ替えて販売したことから、犯人に足がつく。
酒に対する愛がないから偽ウイスキイ販売に手を染めたのだろうが、愛があれば味の違いではなく香りの違いに気を使っていただろうに。
フランシスの小説は基本的に1話完結なので気軽に読んで欲しい。
全44作中、同じ主人公が出てくるのは、4つの作品の主人公シッドと、2作で主演のキットだけである。
この二人やトニィに限らず、どの主人公も魅力的である。
2019年06月10日